下田駅近くにある巨大な空き倉庫。「with a tree」と名付けられたこの倉庫で、夢あふれる「with a tree」プロジェクトが昨年初夏より始動しました。
この倉庫はもともと建築会社が使用していたもので、その後空き物件となっていたところを、地元の建築業者・株式会社山本建築が2020年4月に買い取りました。そして、この空き倉庫を利活用したプロジェクトを試みたことが、「with a tree」の始まりです。その背景には、山本建築代表取締役の山本剛生(たけお)さんが感じた、下田における建築業の将来への不安があったと言います。
ある時、職人名簿を見ていて、その平均年齢の高さに驚きました。20代、30代が一人もおらず、ほとんどが60代以上。このままでは、あと10年も経たないうちに下田の建築業がマズいことになると思いました
そこで山本さんは、次代の業界を担う人材を育てることを視野に入れた採用活動を考えました。採用にあたっては、ワーケーションの拠点として若い世代が活発に交流する「LivingAnywhere Commons伊豆下田(以下LAC)」とクラウドソーシングの大手・ランサーズ株式会社が共催した課題解決ワークショップに参加したことで、多くのヒントや人との縁を得たとのこと。専門性が高そう、職人と聞くとなんだか怖いイメージがある・・・そんな建築業のイメージを払拭し、「気軽に建築に触れられる、建築に興味を持ってもらえる“入口”が必要なのでは」と考えた結果、その拠点として「with a tree」を活用することに決めたのだそうです。
自分の作りたい空間をここで自由に作り、その過程で建築の基礎を学ぶ。未経験だからこその柔軟な発想を持って建築の仕事に挑戦する人が一人でも多く生まれてくれたらと願います
「with a tree」の活用は決まっても、どのようなことを行っていくのか、その中身は当初数ヶ月はまったく決まっていませんでした。そんな中、LACのつながりで下田と関わるようになり、5月に開催された山本建築のオンラインイベントに参加して「with a tree」の話題に興味を持ったのが、埼玉で生まれ育ったフリーランスデザイナーの藤井瑛里奈さんでした。
クリエイターが集まって自由に古民家をリノベーションするイベントをやりたいと、以前から思っていました。でも首都圏ではなかなか実現が難しい。そんな話をイベント時にポロッとしたら、剛生さんが『いいね、with a treeでやろうよ』と言ってくれたんです。規模の大きさもあいまってワクワクが止まらなくなり、『やろう』とすぐに決めました
そんな藤井さんを中心として、早速7月11日〜12日にはイベント「下田Week」が開催。「興味のある人みんなに集まってもらい、一緒にアイデアを出し合いたい」という願いから企画され、下田内外から約20人が参加しました。まず1日目は全員で「with a tree」の内部を見学し、アイデア出し。「都心部では絶対できないよね」「このままの姿で演劇とかやってみたいな」など、参加者は興奮した様子でたくさんの意見を交わしていました。そして2日目は2班に分かれて、いよいよ空き倉庫「with a tree」利活用アイデアのプレゼン大会を実施。以下のような企画が飛び出しました。
初めて出会う人同士が顔を合わせ、議論を重ねながらアイデアを結集し、最後に熱弁のプレゼンテーションで締めくくる。そんな豊かな時間が生まれた2日間でした。
最初に植えた小さな木が、地中に根を張り、すくすく育っていつのまにか大木になっていく・・・「with a tree」という名前には、山本さんのそんな想いが込められています。多様な人々が出会い、知識やアイデアを持ち寄って大きな夢を育んでいく。「with a tree」プロジェクトは今、その名前にふさわしいかたちで、下田内外のたくさんの人のエネルギーを集めて動き出しています。この空き倉庫が、「下田にいる人」と「下田に来た人」をつなぐ場所になる、さらには下田のまちのシンボルになる。そんな日が来るのも、そう遠くないのではないでしょうか。